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著作権判例セレクション
QUALITY KING DISTRIBUTORS, INC. v. L' ANZA RESEARCH INTERNATIONAL, INC.(March
9, 1998)
~コピーの輸入(再売買)にファーストセールドクトリンが適用されるかが争点となった事例~
▽ はじめに
米国著作権法602条(a)(1)は、「コピー又はレコードの侵害的輸入又は侵害的輸出」に関して規定したもので、合衆国外で取得された著作物のコピー又はレコードを「著作権者から権限を付与されることなく」(著作権者の許可なく、と言っても同じです。)合衆国に輸入することは、第106条に基づく頒布権の侵害に当たり、著作権侵害として訴えを提起できる旨を規定しています。
一方、著作権の制限規定の1つとして、いわゆる「ファーストセールドクトリン」を成文化した109条(a)(下記参照)があります。「ファーストセールドクトリン」(the first sale doctrine)とは、著作物をその原作品や複製物といった有体物の形態で適法に販売(頒布)した場合には、その有体物については権利の目的が達成されたものとして、当該有体物をそれ以後に販売(再売買・転売)しても、当該著作物には譲渡権(頒布権)の効力が及ばなくなる、という法理論のことで、「消尽理論」とも呼ばれています(わが国著作権法26条の2・2項参照)。
本ケースでは、「ファーストセールドクトリン」を規定する109条(a)が602条(a)にも権利制限として適用されるのかが争点となりました。
《参照》
▶ 米国著作権法106条[著作権のある著作物に対する排他独占的権利]
第107条ないし第122条を条件として、著作権者は、本編の下で、次に掲げる行為を行い又はその行為を許諾する排他独占的権利を有する。
(3)
著作権のある著作物のコピー又はレコードを、販売その他の所有権の移転又は貸与によって、公衆に頒布すること、
《原文》
§ 106. Exclusive rights in copyrighted works
Subject
to sections 107 through 122, the owner of copyright under this title has the
exclusive rights to do and to authorize any of the following:
(3)
to distribute copies or phonorecords of the copyrighted work to the public by
sale or other transfer of ownership, or by rental, lease, or lending;
▶ 米国著作権法109条[排他独占的権利の制限:特定のコピー又はレコードの移転の効果]
(a) 第106条(3)の規定にかかわらず、本編に基づき適法に作成された特定のコピー若しくはレコードの所有者又は当該所有者から許諾を得た者は、著作権者の許諾を得ることなく、当該コピー又はレコードを売却しその他占有の処分をすることができる。…
《原文》
§ 109. Limitations
on exclusive rights: Effect of transfer of particular copy or phonorecord
(a) Notwithstanding the provisions of section
106(3), the owner of a particular copy or phonorecord lawfully made under this
title, or any person authorized by such owner, is entitled, without the
authority of the copyright owner, to sell or otherwise dispose of the
possession of that copy or phonorecord. …
▶ 米国著作権法602条[コピー又はレコードの侵害的輸入又は侵害的輸出]
(a)
侵害的輸入又は侵害的輸出
(1)
輸入―本編の下で著作権者から権限を付与されることなく、合衆国外で取得された著作物のコピー又はレコードを合衆国に輸入することは、第106条に基づくコピー又はレコードを頒布する排他独占的権利の侵害であり、第501条に基づいて訴訟を提起できる。
(2)
侵害品の輸入又は輸出―本編の下で著作権者から権限を付与されることなく、コピー又はレコードを合衆国に輸入し又は合衆国から輸出することは、当該コピー又はレコードの作成が著作権の侵害に該当したか、あるいは本編が適用されていたら著作権の侵害となった場合には、第106条に基づくコピー又はレコードを頒布する排他独占的権利の侵害であり、第501条及び第506条に基づいて訴訟を提起できる。
《原文》
§ 602. Infringing importation or exportation of copies or
phonorecords
(a)
Infringing Importation or Exportation.—
(1)
Importation.—Importation into the United States, without the authority of the
owner of copyright under this title, of copies or phonorecords of a work that
have been acquired outside the United States is an infringement of the
exclusive right to distribute copies or phonorecords under section 106,
actionable under section 501.
(2)
Importation or exportation of infringing items.—Importation into the United
States or exportation from the United States, without the authority of the
owner of copyright under this title, of copies or phonorecords, the making of
which either constituted an infringement of copyright, or which would have
constituted an infringement of copyright if this title had been applicable, is
an infringement of the exclusive right to distribute copies or phonorecords
under section 106, actionable under sections 501 and 506.
▽
本ケースの概要と要点の解説
被上訴人のL' ANZAは、カリフォルニアのメーカーで、合衆国内で専ら、限定的な地理的範囲内でかつ許諾された小売業者にだけ再販売(resell)することに合意した代理店に自身のヘアケア製品を販売しています。L'
ANZAは、高額な宣伝広告と特別な販売訓練を使って、その国内販売の販促活動をしています。しかし、海外市場では、合衆国内と匹敵するような宣伝広告又は販促活動はしていません。というのは、当該製品の海外での価格は、その国内価格に比べてかなり低い)からです。L' ANZAの英国代理店は、マルタの代理店に数トン規模のL' ANZA製品を販売する手はずを整え、製品には著作権があることを示すラベルが貼りつけられましたが、その後、マルタの代理店が、上告人QUALITYに当該製品を販売しました。上告人QUALITYはL' ANZAの(輸入の)許可なく当該製品を合衆国本国に輸入して、当該製品を許諾されていない小売業者に割引価格で再販売(転売)しました。L' ANZAは、訴えを提起して、上告人の行為は、連邦著作権法の下、合衆国で保護される著作物を複製・頒布する、L' ANZAの排他独占権を侵害すると主張しました。連邦地裁は、上告人の「ファーストセールドクトリン」(著作権法109条(a))の主張を認めず、「著作権者に、コピーの許諾されていない輸入を禁止する権利を付与している602条(a)の規定は、もし、(本件のようなケースで)109条(a)が(ファーストセールドクトリンに基づく)抗弁を認めるのであれば、“無意味な”(meaningless)規定”になってしまうであろう」(§ 602(a), which gives copyright owners the right to prohibit the
unauthorized importation of copies, would be "meaningless" if §
109(a) provided a defense.)と結論付け、控訴審も原審の判断を支持しました。
★本ケースの要点(最高裁の判断):
109条(a)で支持されているファーストセールの法理は、輸入されたコピーに適用される(The first sale doctrine endorsed in § 109(a) is applicable to
imported copies.)
※控訴審破棄
最高裁は、「法律の文言は、明白に、602条(a)によって付与される権利(侵害的輸入を排除する権利,一種の「輸入権」とも呼べそうですが、法律的にはあくまで「頒布権」の射程範囲でとらえています。)は109条(a)の適用を受けるということを示している」(The statutory language clearly demonstrates that the right granted
by § 602(a) is subject to § 109(a).)と判示しました。
最高裁は、概ね次のような論理(文理解釈)で、602条(a)の字義通りの内容は、適法な所有者が国内にいようが海外にいようが、そのどちらにも適用されない(そのような適法な所有者からの再売買は頒布権を侵害しない、と述べました:
頒布権を含めてすべての著作権は107条から120条の制限を受けます。そのような著作権の制限規定の1つが109条(a)です。109条(a)は、明示的に、「適法に作成されたコピー」の所有者が当該コピーを「106条(3)の規定(頒布権)にかかわらず」再販売(転売)することを許しています。「著作権法の下で適法に作成された」著作権保護のある品物を最初に販売した後は、それ以降のすべての買主は、それが国内小売業者からの再売買であろうと、海外からの再売買であろうと、あきらかに当該品物の「所有者」です。109条(a)は、そのような所有者は「著作権者の許諾なしにかかる品物を再販売(転売)する資格がある」ことを疑義なく述べています。さらに、602条(a)は、単に、無権限の輸入が「106条に基づく」排他独占権の侵害に当たる旨を規定しているだけで、そのように限定された排他独占権(ここでは特に頒布権をさします。)は、適法な所有者による再売買(転売)を射程範囲に含めていないのであるから、602条(a)の字義通りの内容は、単純に、問題の製品を合衆国に輸入してそれらを転売することを決定した、国内外にいるL' ANZA製品の所有者(による再売買)に適用されない(ファーストセールドクトリンが適用されて、適法な所有者からの輸入(再販売)は頒布権を侵害しない)(After the first sale of a
copyrighted item "lawfully made under this title," any subsequent
purchaser, whether from a domestic or a foreign reseller, is obviously an
"owner" of that item. Read literally, § 109(a) unambiguously states that
such an owner "is entitled, without the authority of the copyright owner,
to sell" that item. Moreover, since § 602(a) merely provides that
unauthorized importation is an infringement of an exclusive right "under §106,"
and since that limited right does not encompass resales by lawful owners, §
602(a)'s literal text is simply inapplicable to both domestic and foreign
owners of Uanza's products who decide to import and resell them here.)と、判示しました。