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著作権判例セレクション
KIRTSAENG, dba BLUECHRISTINE99 v. JOHN WILEY & SONS, INC.(March 19,
2013)
~外国で作成された適法なコピーの輸入(再売買)にファーストセールドクトリンが適用されるかが争点となった事例~
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はじめに(問題の所在)
著作権者が専有する、著作権のある著作物のコピーを頒布する「排他独占権」(106条(3))は、107条から122条に規定されるいくつかの制限の適用を受けることを条件に付与されるものです。そのような制限の中に「ファーストセールドクトリン」(109条(a))が含まれます。109条(a)は、「本編に基づき適法に作成された特定のコピー若しくはレコードの所有者…は、著作権者の許諾を得ることなく、当該コピー又はレコードを売却しその他占有の処分をすることができる」(“the owner of a particular copy or
phonorecord lawfully made under this title . . . is entitled, without the
authority of the copyright owner, to sell or otherwise dispose of the
possession of that copy or phonorecord.)と明記しています。
したがって、例えば、著作権によって保護されている作家Aの小説のコピーの頒布(販売等)が頒布権(106条(3))によって禁止されていても、ひとたび作家Aの当該小説のコピーが適法に販売された場合には、その買主やさらにその買主から当該コピーを買い受けた者は(著作権者である作家Aの許可なく)自由に当該コピーを処分することができます。これを著作権法(知的財産法)の分野では、「ファーストセールドクトリン(first sale doctrine)」と呼んでいます。「ファーストセール」は、著作権者の占有する排他独占権である頒布権を「消尽」させている(the “first sale” has “exhausted” the copyright owner’s §106(3)
exclusive distribution right.)ので、ファーストセールドクトリン(first
sale doctrine)は、また「消尽理論(exhaustion doctrine)」とも言われます。
ところで、上述の例で、作家Aの小説のコピーが外国で印刷されてそれが適法に販売された場合でも、ファーストセールドクトリンは適用されるのでしょうか、すなわち、その買主は、国内で製作されたコピーの買主のように(like the buyer of a domestically manufactured copy)、当該コピーを合衆国に持ち込んで(輸入して)自由に処分することができるのでしょうか。本ケースではまさにこの点が争点となりました。
この点につき、「侵害的輸入」(Infringing importation of copies)について定める602条(a)(1)は、「本編の下で著作権者から権限を付与されることなく、合衆国外で取得された著作物のコピー……を合衆国に輸入することは、第106条に基づくコピー……を頒布する排他独占的権利の侵害であり……」(importation
into the United States, without the authority of the owner of copyright under
this title, of copies . . . of a work that have been acquired outside the
United States is an infringement of the exclusive right to distribute copies .
. . under section 106 . . . .”)と規定しています。
上述のように、602条(a)(1)は、許可なくコピーを輸入することが当該著作権者の頒布権を侵害することを明確に規定しているのですが、一方で、「第106条に基づくコピーを頒布する排他独占的権利」とも明確に述べています。そして、106条に規定されている著作権(排他独占権)はすべてファーストセールドクトリンを含む権利制限規定(107条~122条)に従わなければならないことから、602条(a)(1)と109条(a)の適用関係が問題となるわけです。
最高裁は、109条(a)中の文言「本編に基づき適法に作成された」(lawfully
made under this title)が法律的に決定的に重要な違いを生じさせるかどうかを決定しなければならいない(we must decide here whether the five words, “lawfully made under
this title,” make a critical legal difference.)、として本ケースを判断しました。
外国で作成されたコピーを著作権者の許可なく輸入することは、頒布権の侵害に当たります(602条(a)(1)参照)。Quality ケース(Quality King Distributors, Inc. v. L’anza Research Int’l, Inc.)で、最高裁は、602条(a)(1)が106条(3)に言及することで、602条(a)(1)の中に、109条(a)のファーストセールドクトリンを含めた著作権の制限規定(107条~122条)が組み込まれて(読み込まれて)いる(つまり、602条(a)(1)は109条(a)のファーストセールドクトリンの制限を受ける)と判示しました(In Quality King Distributors, Inc. v. L’anza Research Int’l, Inc.,
523 U.S. 135, 145, this Court held that §602(a)(1)’s reference to §106(3)
incorporates the §§107 through 122 limitations, including §109’s “first sale”
doctrine.)。もっとも、Quality ケースは、著作権者のコピーが当初「合衆国で」適法に作成されて、それが後に海外に送られて販売(転売)されたケースでした。本ケースはQualityケースに似ていますが、ただ一点、重要な違いがあります。それは本ケースで問題となったコピーが外国で製作された(The copies at issue here were manufactured abroad.)、という点です。
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本ケースの概要と要点の解説
学術テキストの出版者である被上訴人のJohn Wiley & Sons社は、その英語テキストの海外版を印刷出版、販売する権利を外国の子会社であるWiley Asia社に譲渡しています。Wiley Asia社の書籍には、これらの書籍を許可なく合衆国に持って行くことを禁止する旨が明記されています。上訴人のKirtsaengは、数学を勉強するためにタイから合衆国に行った際に、彼の友人と家族に、タイの書店(その書店では当該テキストが低価格で売られていた。)にある外国版の英語テキストを購入して、それを合衆国にいる彼のもとに郵送するように頼みました。その後、Kirtsaengは、そのテキストを売って、それで家族と友人に購入費用を弁償すると同時に、残りを利益として保持しました。
Wileyは、Kirtsaengに対して訴えを提起し、Kirtsaengの無許諾の輸入と当該テキストの再売買(転売)は、Wileyが有する106条(3)の頒布権及び602条(a)の輸入禁止(権)の侵害に当たると主張しました。これに対し、Kirtsaengは、彼のテキストは「適法に作成された」(“lawfully made”)もので、合法的に手に入れたものだから、109条(a)のファーストセールドクトリンは、Wileyのさらなる許可がなくても輸入と再売買を許すと応答しました。連邦地裁は、Kirtsaengはファーストセールドクトリンの抗弁を主張することはできない、なぜなら、ファーストセールドクトリンは、「外国で作成された品物」には適用されないからである(Kirtsaeng could not assert this defense because the doctrine does
not apply to goods manufactured abroad; in its view, that doctrine does not
apply to “foreign-manufactured goods” (even if made abroad with the copyright
owner’s permission).)、と述べました。控訴裁判所も原審を支持して、109条(a)に規定する「本編に基づき適法に作成された」(“lawfully made under this title”)という文言は、「ファーストセール」ドクトリンは、アメリカの著作権保護にかかる著作物で、海外で作成されたコピーには適用されないことを示している(§109(a)’s “lawfully made under this title” language indicated that
the “first sale” doctrine does not apply to copies of American copyrighted
works manufactured abroad.; It pointed out that §109(a)’s “first sale” doctrine
applies only to “the owner of a particular copy . . . lawfully made under this
title.” And, in the majority’s view, this language means that the “first sale”
doctrine does not apply to copies of American copyrighted works manufactured
abroad.)、と結論付けました**。
**上述の多数意見に対する反対意見は、「本編に基づき適法に作成された」(“lawfully made under this title”)という文言は、「製作場所に」(to a place of manufacture)言及しておらず、むしろ、「特定のコピーがアメリカの著作権に基づき適法に(合法的に)製作されたかどうかに焦点を合わせており」、そして、「特定のコピーにかかる製作の合法性は合衆国連邦著作権法によって判断されるべきである」(A dissenting judge thought that the words “lawfully made under this title”
do not refer “to a place of manufacture” but rather “focus on whether a
particular copy was manufactured lawfully under” America’s copyright statute,
and that “the lawfulness of the manufacture of a particular copy should
be judged by U. S. copyright law.”)としていました。
★本ケースの要点(最高裁の判断):
「ファーストセール」ドクトリンは、海外で適法に作成された著作物のコピーに適用される(The “first sale” doctrine applies to copies of a copyrighted work
lawfully made abroad.)
※控訴審破棄・差戻し
最高裁は、当裁判所は、「本編に基づいて適法に作成された」という語句が地理的に109条(a)のファーストセールドクトリンの範囲を制限しているか否かを決定しなければならないと述べました。
Wileyサイドは、地理的な制限の一態様を課すものとして、当該語句を解釈しました(Wiley reads “under this title” to mean “in conformance with the
Copyright Act where the Copyright Act is applicable.”)。第2巡回区控訴裁判所は、当該語句は、ファーストセールドクトリンの適用を、連邦著作権法が存在する(適用される)領域で作成された(“made
in territories in which the Copyright Act is law”)コピー、すなわち、「国内で製作された」(“manufactured domestically”)コピーに限定しており、「合衆国の領域外」(“outside of the United States”)で作成されたコピーにファーストセールドクトリンは適用されないと判示しました。
以上のような「地理的解釈」に基づけば、著作権者が外国でコピーを作成することを許可したにも関わらず、そのような(外国で適法に作成された)書籍のコピーを買った者―それが外国のどこかの小売店であろうが、インターネットを介してであろうが―は、当該著作権者のさらなる許可がなければ、そのコピーを再売買その他の処分ができなくなると解されるため、109条(a)のファーストセールドクトリンは、本ケースで問題となっているWiley Asiaの書籍のコピーには適用されないということになります。
一方、Kirtsaengは、「本編に基づいて適法に作成された」という語句を「地理的限定を課さない」(non-geographical interpretation)ものとして解釈しました。彼は、当該語句は、連邦著作権法に「従って」(made “in accordance with” or “in compliance with” the Copyright Act)作成された、という意味に解釈しました。「ファーストセール」ドクトリンは、とりわけ、本件のように、コピーが著作権者の許可を得て海外で製作される場合に適用される(In particular, the doctrine would apply where, as here, copies are
manufactured abroad with the permission of the copyright owner.)と主張しました。
以上のような両者の主張に対して、最高裁は、109条(a)の文言、文脈そして過去の判例や著作権制度の目的に照らしつつ**、これらを総合的に勘案して、地理的に限定されない解釈(nongeographical
reading[interpretatrion])に軍配を上げました(We consequently
conclude that Kirtsaeng’s nongeographical reading is the better reading of the
Act.)。
**最高裁としては、109条(a)の文理解釈(字義解釈)を優先し、「109条(a)の文言は、地理的に何も述べていない」(The language of §109(a) says nothing about geography.: neither
“under” nor any other word in the phrase means “where.”)と述べて、結局、「本編に基づいて適法に作成された」という語句は、「合衆国連邦著作権法に従って(“in accordance with” or “in compliance with”)に従って作成された」と読む(解釈する)するべきだと判示しました。地理的に限定されない解釈は簡明で、それは、海賊版を戦うという伝統的な著作権法の目的にも沿うと述べました。
外国で適法に作成された書籍や各種ソフト、美術品やその他の輸入品やサービスが大量にアメリカに入り込んでいる現状で、「地理的に限定された解釈」を採用し、外国で適法に作成されたコピーの再売買(転売)にファーストセールドクトリンが適用できないものとすると(最初の販売(ファーストセール)で著作権が消尽してないことになって、その後、当該コピーの著作権者の許可がなければ再売買その他の処分ができないことになるから)、中古品市場は混乱し、ひいては、憲法に規定する著作権制度の根本的な目的である「科学[学術]及び有用な技芸の発展を促進すること」“promot[ing] the Progress
of Science and useful Arts.”(アメリカ合衆国憲法第1編第8条第8項参照)を達成できないだろう事態を将来させるとの指摘が、上訴人やその法的助言人(全米図書館組合図書館や古本本のディーラー等)によってなされ、最高裁もこの懸念(現実的な問題)は軽視できないとして、彼らに同調しました。最高裁は、ますます重要性を増す外国取引の重要性に照らせば、上訴審やその法廷助言人が指摘した「現実的な問題」(practical problems)はかなり深刻で、広範囲で、しかもそのような問題が起こる可能性が大いにあるので、そのような現実的な問題を重要でないとして無視することはできない(the practical problems that petitioner and his amici have described
are too serious, too extensive, and too likely to come about for us to dismiss
them as insignificant—particularly in light of the
ever-growing importance of foreign trade to America.)、と述べました。